2022/04/09 22:00
石澤由松の演奏家としての人生は、学園紛争で大学の授業がなく、米軍基地で演奏のアルバイトをしたことに始まります。
本国から人気の歌手が慰問に来る、その伴奏のエレキベースが、ウッドベースのような深い音であることに石澤は驚きました。
来日には軍用機が使われ、ウッドベースを運べなかったのです。
アメリカの演奏家たちと同じ音を出すため、石澤はウッドベースを練習しました。
ウッドベースの名手、レイ・ブラウンやロン・カーターには、話しかけて演奏のコツを尋ねました。
けれどもエレキベースの名手ジェームス・ジェマーソンには、あまりにも恐れ多くて話しかけることができなかったそうです。
石澤はプロになり、アメリカに出かけてエレキベースを演奏するようになりました。
ジェームス・ジェマーソンのいるモータウンでテンプテーションズの伴奏をしたときは、石澤が弾くとテンプテーションズのメンバーが、
「誰が弾いてるんだ?」
というようにふり返り、手をのべて聴衆に紹介してくれました。
先日、石澤は倒れて意識を失いました。
死ぬかも知れないそのとき、わたしは石澤の右手が動いているのに気づきました。
その手は確かに、エレキベースを弾いていたのです。
回復した石澤に、エレキベースへの思いを尋ねました。
すると石澤は、ジェームス・ジェマーソンやテンプテーションズの思い出を語りました。
石澤のエレキベースは、エレキ本来の音はもちろんウッドベースの音も出せるように鍛練されたものです。
これまで宮澤賢治の朗読には、主にウッドベースを合わせてきましたが、これからは、賢治の韻を踏んだラップのような文章に、主にエレキベースを合わせてみようと思います。
石澤の入院により完成が遅れておりますが、無事に回復に向かっております。
心象スケッチ「小岩井農場」CDでは、石澤のエレキベースを存分にお楽しみいただけます。
いましばらく、お待ちくださいませ。